福岡地方裁判所飯塚支部 昭和33年(ワ)18号 判決 1959年10月30日
原告 永島クラ
当事者参加人 永島初子
被告 飯塚市 外二名
主文
原告の請求はこれを棄却する。
被告等は連帯して参加人に対し金五十万九千二百三十一円及びこれに対する昭和三十一年五月三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払わなければならない。
参加人の被告等に対するその余の請求はこれを棄却する。
参加人の原告に対する請求はこれを却下する。
訴訟費用中、参加人の参加前に生じた部分は原告の負担とし、参加人の参加以後に生じた部分はこれを四分し、その各一宛を原告と参加人の負担とし、その二は被告等の連帯負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、本訴につき「被告等は連帯して原告に対し金百万円及びこれに対する昭和三十一年五月三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払わなければならない。訴訟費用は被告等の連帯負担とする。」との判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、参加人の請求につき「参加人の請求はこれを棄却する。参加費用は参加人の負担とする。」との判決を求め、
本訴請求の原因として
一、訴外亡永島八郎は昭和二十九年十一月頃より被告株式会社田中商店(以下被告会社という)の店員をしていたものであるが、昭和三十一年一月二十五日被告会社所有の自動三輪車に長さ約二間余のレール約三十本を積載し、被告田中淳がこれを運転し、右永島外一名が同乗して被告会社前から同所より約二百米離れた被告会社の倉庫に向う途中、同日午前十時頃飯塚市徳前百六番地先路上に差し掛つた際、水道管の故障により地盤が軟弱になり低下していた箇所に右自動三輪車の左側後車輪が落ち込み、右自動三輪車が横転し、その際右永島は車上より転落して積載していた前記レールの下敷になり、右頭部前額複雑骨折、前頭部内出血、前胸部打撲等の重傷を負い、同日午前十時二十分頃飯塚市吉原町青山病院において死亡するに至つた。
二、而して本件事故は被告飯塚市の土地の工作物の設置保存に瑕疵があつたことと、被告田中の過失に基因するものである。
(1) 即ち本件事故現場の道路は幅員約二間であるが、その地下には被告飯塚市の水道管が埋設されており、従つて右道路の管理は被告飯塚市においてこれをなしていたが、本件事故の四、五日前より現場附近の水道管が破裂したため水が路面に湧出し、事故当日には深さ約五十糎の水溜りを生じていた。その間被告飯塚市の水道課は附近の居住者より右水道管の漏水の事実を告げられていたにも拘らずその修理を怠り、また該区域に立札を立てる等右区域が危険であることを示す標識も設置しなかつた。そのため前記のとおり前記自動三輪車の車輪が右水溜りに落ち込み、本件事故が発生したものである。
(2) 被告田中淳は事故現場附近に居住し、右道路の状況を熟知していたにも拘らず、当日自動三輪車を運転して事故現場附近を通行する際前方注視義務を怠り漫然前記水溜りの中へ車を乗り入れた点に過失がある。
更に同被告は自動車の運転者として自動三輪車にレールを積載する場合はロープ等をもつてこれを荷台に固定しその散乱を防止すべき注意義務があるのに、当時これを怠り、レールを全く固定させていなかつた点にも過失があり、同被告の以上の過失が本件事故の一因をなしたものである。
三、本件事故はこのように被告飯塚市の管理する土地の工作物である水道並に道路の設置保存上の瑕疵と被告田中の前記過失とが競合して発生したものであり、また被告田中は被告会社の被用者として被告会社の事業の執行につき本件事故を惹起したものであるから、被告等は連帯して本件事故によつて発生した損害を賠償する義務がある。
四、原告は右永島八郎の養母であつて、右八郎の唯一の相続人である。尤も戸籍上右八郎は原告の長男になつているが、戸籍上の右記載は戸籍届出の手続を誤つたために生じたものであり、事実は右八郎の出生当時その実母である参加人永島初子の代諾により原告と右八郎との間に養子縁組がなされていたものである。仮に右養子縁組が要式を欠くものとしても、右八郎は生前終始自己の身分関係につき異議を述べず、原告の子として生活していたので、右八郎が十五才に達した当時、または遅くとも満二十才に達した当時右養子縁組は法律上効力を生ずるに至つたものと解すべきである。
五、而して右八郎及び原告が本件事故によつて蒙つた損害は次のとおりである。
(1) 右八郎が将来得べかりし利益を喪失したことによる損害。
右八郎は昭和九年四月三日生れで、死亡当時満二十一年九ケ月二十一日の健康体の男子であつて、前記のとおり被告会社に勤務して古鉄の運搬等の仕事に従事し、日給金二百四十五円を支給され、月平均二十五日稼働し、月額金六千百二十五円の収入を得ていた。ところで八郎は前記の如き仕事の性質上本件事故がなかつたとすれば満六十才に達するまで従来の仕事に従事し、少くとも前同様の収入を得ることができたものと予想され、従つて残存労働期間は三十八年二ケ月八日であるが計算の便宜上これを三十八年として計算すると、八郎の将来得べかりし総収入は金二百七十九万三千円であるが八郎は生前生活費として毎月金三千円を要しまた本件事故に関して飯塚労働基準監督署より金二十四万四千六百十円の補償を受けているので前記総収入よりこれを控除し更にホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除した残額金六十二万千三百十円が即ち得べかりし利益の喪失に対する一時の補償額である。従つて八郎につき同金額の損害賠償請求権が発生していたものというべきところ、八郎の死亡により原告においてこれを相続により全額承継取得したので、原告は被告等に対し金六十二万千三百十円の損害賠償請求権がある。
(2) 慰藉料
原告は昭和二十三年夫友次郎に死別し、爾来寡婦として右八郎を養育し、その成長を楽しみにしていたのであつて、資産はなく家族としては他に養子賢一と長女である参加人があるのみで 八郎の収入に依存して生活していた。従つて原告が八郎の死亡により受けた精神上の苦痛に対する慰藉料としては金三十八万円が相当である。
六、そこで原告は被告等各自に対し、右八郎の将来得べかりし利益を喪失したことによる損害金のうち金六十二万円、慰藉料金三十八万円以上合計金百万円及びこれに対する本件訴状が各被告に送達された日の翌日である昭和三十一年五月三日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ
と述べ、
参加人の請求に対する答弁として
参加人主張の請求原因事実中参加人が右永島八郎の法律上の母であること及び参加人が相続により本件損害賠償請求権を承継取得したことは否認するが、その余の事実は全て認める。
右八郎は参加人と訴外松井種雄との間の婚姻外の子として出生したが、参加人において右八郎につき認知の手続をとつていないので、参加人は右八郎の事実上の母であるに止まり、法律上の母ではない。従つて本件損害賠償請求権は参加人に帰属せず、参加人請求は理由がない。
以上のように述べ、
証拠として、甲第一、第二号証、同第三、第四号証の各一、二、同第五号証、同第六号証の一乃至十九、同第七号証の一乃至三、同第八乃至第十五号証を提出し、証人渡辺敏彦(第一、二回)、田中正太、矢野ミツエ、矢野貞次、福谷政雄、福谷茂子、武藤欽哉(第一回)の各証言、及び原告永島クラ、被告会社代表者田中淳一、被告田中淳(第一、二回)、参加人永島初子(第一、二回)の各本人尋問の結果並に現場検証の結果を援用し、丙号各証の成立を認めた。
被告飯塚市訴訟代理人は、本案前の裁判として「参加人の請求はこれを却下する。参加費用は参加人の負担とする。」との判決を求め、本案につき「原告及び参加人の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告及び参加人の負担とする。」との判決を求め、原告の請求に対する答弁並に抗弁として
原告主張の請求原因事実中、訴外亡永島八郎が被告会社の店員であつたこと、右永島が原告主張の日時にその主張の場所において自動三輪車の事故により負傷し死亡したこと、右事故現場の道路に被告飯塚市所有の水道管が埋設してあり、右道路の管理は被告飯塚市がなしていたこと、右事故発生当時事故現場の水道管より漏水して道路に水溜りが生じていたこと、及び原告等が本件事故につき金二十四万四千六百十円の補償を受けたことはいずれもこれを認めるがその余の事実は全て争う。
なお前記水道管の漏水により事故現場の道路に水溜りを生じていたことと本件事故との間に相当因果関係はない。また被告飯塚市水道課は本件事故が発生した直後、飯塚警察署からの電話により初めて水道管漏水の事実を知り、直ちにこれを復旧したが、その際鉛管の一部に直径約一粍の穴を生じ、そこから漏水していたことが判明したのであつて、原告主張のように漏水の事実を知りながら放置していたのではない。従つて被告飯塚市は本件事故につき損害賠償の義務はない。
仮に被告飯塚市に不法行為上の責任があるとしても、原告等は既に本件事故につき金二十四万四千六百十円の補償を受けているので損害は既に填補されている。仮に填補されていないとしても本件事故は被害者である右永島自身の次の如き過失にも基因するものであるから賠償額の算定につき斟酌さるべきである。即ち、右永島は本件事故発生当時貨物運搬のため本件自動三輪車に同乗していたのであるから、かかる場合自らも積荷を荷台に固定させ、その運搬につき万全の措置を講ずべき注意義務があるのに当時これを怠りレールを荷台に十分固定させなかつた。更に貨物自動車の荷台に乗車する場合は着座しなければならない旨法規の定められているのに拘らず、当時右永島は右規定に違背し、他の同乗者と共にレールを両側から挟むようにして荷台の上に立つていた。若し右永島が荷台に着座していたならば本件の如き重大な事故は発生しなかつたであろうと推測される。
参加人の請求に対する本案前の抗弁として
参加人が永島八郎の母であることは否認する。仮に参加人が右八郎の母であるとしても、戸籍上右八郎が原告の嫡出子になつていることは参加人において自認するところであるから、参加人はまず戸籍の訂正を求めてその身分関係を明確にすべきであり、その手続を経ていない参加人の請求は当事者適格を欠き不適法として却下されるべきである。
参加人の請求に対する本案の答弁並に抗弁として
参加人主張の請求原因事実中参加人が永島八郎の母であること及び参加人主張の損害額は争う。その余の事実に対する認否及び被告飯塚市の抗弁は原告の請求に対する答弁並に抗弁と同様である。従つて参加人の請求は理由がない。
以上のように述べ、
証拠として、証人永島賢一、城丸末松、武藤欽哉(第二回)の各証言並に鉛管の検証の結果を援用し、甲(丙)第七号証の一乃至三の成立は不知と述べ、その余の甲号並に丙号各証の成立を認めた。
被告会社、被告田中淳両名訴訟代理人は、本案前の裁判として「参加人の請求はこれを却下する。参加費用は参加人の負担とする。」との判決を求め、本案につき「原告及び参加人の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告及び参加人の負担とする。」との判決を求め、
原告の請求に対する答弁並に抗弁として
原告主張の請求原因事実中、訴外亡永島八郎が被告会社の店員であつたこと、原告主張の日時に被告会社所有の自動三輪車にレールを積載し、被告田中淳がこれを運転し、右永島外一名が同乗して被告会社前より被告会社倉庫へ向う途中原告主張の場所において道路の軟弱部分に右自動三輪車の左側後車輪が落ち込み、その際右永島が負傷し死亡したこと、本件事故現場の道路には被告飯塚市の水道管が埋設されており、本件事故の四、五日前から右水道管より漏水し、その部分の土壤が軟弱になつて大きな水溜を生じていたこと及び原告等が本件事故に関しすでに金二十四万四千六百十円の補償を受けたことはいずれもこれを認めるが、その余の事実は全て争う。
なお本件事故現場の道路は舗装されていなかつたので、当時数日来の降雪による雪解けの水と前記水道管からの漏水により覆われ、道路一面に水溜りを生じ、前記水道管の漏水により生じた穴は一見してその存在を確認し難い状況にあつた。そのため当時被告田中淳は自動三輪車を運転するに当り十分注意を払つていたが前記穴の存在を認めることができなかつたのである。従つて本件事故は全く被告飯塚市の水道並に道路の保存に瑕疵があつたことに基因するものであり、被告田中淳及び被告会社には本件事故につき不法行為上の責任はない。
仮に本件事故につき被告田中淳に過失があつたとしても、本件事故は被害者である右永島自身の次の如き過失にも基因するものであるから賠償額の算定につき斟酌されるべきである。即ち右永島は当時自ら積荷に施縄したのである。施縄が不備であつたとすれば右永島自身にも過失があつたといわなければならない。また道路交通取締法施行令第四十三条には貨物自動車の荷台に乗車する者は荷台に座わらなければならず、且つ身体の一部を荷台の外に出してはならない旨規定されているところ、当時右永島は右規定に違背して荷台の上に立つていたため本件の如き重大な事故が発生したものである。
参加人の請求に対する本案前の抗弁として
参加人が永島八郎の母であることは否認する。仮に参加人が右八郎の母であるとしても、戸籍上右八郎が原告の嫡出子になつていることは参加人の自認するところであるから、参加人はまず戸籍の訂正を求めてその身分関係を明確にすべきであり、その手続を経ていない参加人の請求は当事者適格を欠き、不適法であるから却下されるべきである。
参加人の請求に対する答弁並に抗弁として
参加人主張の請求原因事実中参加人が永島八郎の母であること及び参加人主張の損害額は争う。その余の事実に対する認否及び右被告両名の抗弁は原告の請求に対する答弁並に抗弁と同様である。従つて参加人の請求は理由がない。
以上のように述べ
甲号及び丙号各証の成立を認めた。
参加人は「原告との関係において原告が本訴において被告等に対し請求する永島八郎の死亡による金百万円の損害賠償並に慰藉料債権及びこれに対する昭和三十一年五月三日から完済に至るまで年五分の割合による損害金債権が原告に帰属しないことを確認する。被告等は各自参加人に対し金百万円及びこれに対する昭和三十一年五月三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払わなければならない。訴訟費用は被告等の連帯負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求め、参加請求の原因として、
一、訴外永島八郎は昭和三十一年一月二十五日交通事故により死亡したが右事故の状況並に右事故が被告飯塚市の土地の工作物の設置保存の瑕疵と被告田中淳の過失に基因し、被告等に右事故によつて生じた損害を賠償する義務があることは原告主張の請求原因事実第一乃至第三項に記載されているとおりである。
二、しかるところ参加人は右永島八郎の実母である。尤も戸籍上右八郎は原告と訴外永島友次郎間の嫡出子となつているが、それは右八郎が昭和九年四月三日参加人とその内縁の夫である訴外松井種雄との間の婚姻外の子として出生したため、参加人は右八郎を参加人の父母である右永島友次郎と原告の養子にすることにしたが、その届出をなすに当り誤つて右八郎を右永島友次郎と原告との間に生れた実子として出生届をしたことによるものである。従つて参加人は右八郎の母として且つ唯一の相続人として右八郎の遺産に対する相続権並に右八郎の死亡による慰藉料請求権を有するものであり、原告にはその権利が存しない。
三、本件事故により右八郎及び参加人の蒙つた損害は次のとおりである。
(1) 右八郎が将来得べかりし利益を喪失したことによる損害
右八郎は死亡当時満二十一年九ケ月余の健康体の男子であつて、前記のとおり被告会社に店員として勤め、古鉄の運搬等の仕事に従事し、死亡当時の一日の平均賃金は金二百四十五円であつた。而して右八郎は前記の如き仕事の性質上本件事故がなかつたとすれば満六十才まで従来の仕事に従事し、少くとも前同様の収入を得ることができたものと予想され、従つて残存労働期間は三十八年二ケ月余であるが、便宜上これを三十八年として計算すれば右八郎の将来得べかりし利益の総額は金三百三十五万千六百円となり、右八郎は本件事故により同金額の損害を蒙つたものである。而して参加人は右八郎の母として右金三百三十五万千六百円の損害賠償請求権を相続により承継取得したが、昭和三十一年三月二十四日飯塚労働基準監督署から右八郎の死亡に関して金二十四万四千六百十円の補償を受けたので前記金額からこれを控除しても、参加人は金三百二十五万六千九百九十円の損害賠償請求権を有する。
(2) 慰藉料
参加人が右八郎の母として本件事故により受けた精神上の苦痛に対する慰藉料としては金十五万円が相当である。
四、よつて参加人は原告との間で原告が本訴において被告等に請求する永島八郎の死亡による金百万円の損害賠償並に慰藉料債権及びこれに対する昭和三十一年五月三日から完済に至るまで年五分の割合による損害金債権が原告に帰属しないことの確認を求め、且つ被告等各自に対し右八郎の将来得べかりし利得の喪失による損害金のうち金八十五万円、慰藉料金十五万円、以上合計金百万円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和三十一年五月三日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため参加請求に及ぶ
以上のように述べ
証拠として、丙第十五、第十六号証を提出し、甲号各証の成立を認め、甲第一乃至第十四号証をそれぞれ丙第一乃至第十四号証として援用した。
理由
第一、原告の請求についての判断。
原告が訴外亡永島八郎の養親であるか否かの点につき考察するのに、成立に争のない丙第十五号証、同第十六号証の各記載、証人永島賢一の証言並に原告本人永島クラ、参加人本人永島初子(第一回)の各供述を綜合すれば次の事実が認められる。
右八郎は参加人が訴外松井種雄と内縁の夫婦であつた頃その間の次男として昭和九年四月三日門司市において出生した。ところで間もなく右種雄が死亡したため参加人は右八郎と長男永島賢一を連れて参加人の父母である訴外亡永島友次郎と原告の下に帰つた。その後参加人は原告等と相談のうえ参加人の代諾により右八郎とその兄賢一を原告夫婦の養子にすることにし、賢一については既に参加人の私生子として出生届がなされていたので昭和十四年二月十三日養子縁組の届出をなし、翌十五年十月九日右八郎についてもその届出をすることになつたが、その手続にあたつた右友次郎が右八郎につき未だ出生届がなされていなかつたところから直接右八郎を原告夫婦の長男として出生届をしたため、戸籍簿に右八郎が原告夫婦の嫡出子として記載されるに至つた。以上の事実が認められ右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定の事実によれば、参加人と原告夫婦の間において右八郎を原告夫婦の養子にする旨の合意がなされていたものとみるべきところ、若し婚外子と母との間に母子関係が成立するためには母の認知またはこれに代る母の出生届を要するという従来の判例の見解に立てば、前段認定のとおり当時参加人において右八郎の出生届すらしていなかつたのであるから、参加人は右八郎の養子縁組につき代諾権を有せず、従つて右養子縁組の合意は無効であるといわなければならないが、当裁判所はこの点につき後に述べるように母子関係は分娩により当然生ずるものと解するので右養子縁組の合意も有効になされたものと解する。しかしながら養子縁組は当時施行されていた民法第八百四十七条、第七百七十五条及び戸籍法に従いその所定の届出をなすことにより成立する要式行為であるところ、右八郎の養子縁組につき所定の届出がなされていないことは前段認定のとおりであり、また内容を異にする嫡出子出生届をもつて養子縁組の届出としての効力を認めることもできないので右八郎と原告夫婦間の養子縁組は未だ成立していないものといわなければならない。原告はその後右八郎において自己の身分関係につき異議を述べず終始原告夫婦の子として生活して来たので、右八郎が満十五才に達した時または遅くとも満二十才になつた時前記養子縁組は法律上効力を生ずるに至つたものとみるべきである旨主張するが、かかる事情によつて要式の欠缺が補われるものとは到底解し難く、結局原告と右八郎との間には養親子関係がないものというべきである。
ところで原告の本訴請求が、原告が右八郎の養親であることを前提とするものであることは原告の主張自体により明らかであるから原告の本訴請求はその余の争点につき判断するまでもなく理由がないことに帰する。
第二、参加請求の適否についての判断。
一、被告等は参加人が永島八郎の母であることを否認し、仮に母であるとしても戸籍簿上右八郎は原告永島クラの嫡出子として記載されているので参加人においてまず右戸籍の訂正を求めその身分関係を明確にしない限り参加人に当事者適格がない旨主張する。そこでまず後段の主張について考察するのに、戸籍簿は法令により作成される公簿であるから、その記載内容は特段の事情がない限り真実を記載したものとして尊重すべきであるが、しかし戸籍簿の記載と異る身分関係を主張することももとより許され、戸籍訂正の手続を経なければこれと異る身分関係を主張できないとする根拠は存しない。従つて参加人が右八郎の母であるか否かは訴訟に顕れた一切の資料によりこれを判定すれば足り、参加人において事前に戸籍訂正の手続を求める必要はない。そこで前段の主張について考察するのに、参加人は右八郎の母として本訴における訴訟物たる右八郎の死亡による損害賠償並に慰藉料請求権が参加人に帰属することを理由として本件訴訟に参加したものであるから、参加人が右八郎の母であるかどうかは参加人の当事者適格の存否に関する問題であると同時にまた本案に関する問題でもあるわけであり、従つてこの点に関する判断は本案の審理において当事者の提出にかかる訴訟資料に基きなすべきところ、当裁判所は後段認定のとおり参加人は右八郎の母であると認めたので被告等の前記主張はこれを採用できない。
二、しかしながら参加人の原告に対する請求は次の点において不適法であるといわなければならない。即ち一般に訴訟制度に利用しようとするものは紛争の解決につき最も効果的な方法を択ぶべきであり、これを確認の訴についていえば、権利の主体と称するもの相互間においてその帰属を争う場合には自己の権利の積極的確認を求むべく、相手方の権利の消極的確認を求めることは、仮令これに勝訴したとしても、自己が権利を有することにはならず、紛争を後日に残すという意味において確認の利益を欠くものと解すべきところ、参加人は原告に対する請求として本訴における訴訟物たる損害賠償並に慰藉料請求権が原告に帰属しないことの消極的確認を求めているのであるから、参加人の原告に対する請求は確認の利益を欠き不適法であるといわなければならない。
第三、参加人の被告等に対する請求についての判断。
一、被告会社の店員であつた永島八郎が昭和三十一年一月二十五日参加人主張の場所において自動三輪車の事故により負傷し死亡したことは当事者間に争がない。
まず本件事故の現場の状況及び事故の経過について考察するのに、成立に争のない甲第二号証、同第六号証の九、十、十六、十七、十八、の各記載、証人渡辺敏彦(第一回)の証言、被告本人田中淳(第一回)の供述、現場検証の結果及び前段認定の事実を綜合すれば、次の事実が認められる。
(1) 現場の状況。現場は飯塚市徳前百五番地訴外田中正太方北側の通称宮の前通りという市道上で、右市道は東西に走り、東方約八米の地点で同市向町通りと丁字交さをしている。現場附近の道路の幅員は約三、九米、非舗装のため本件事故発生当時随所に窪みを生じ、また数日来の降雪により雪解けの水により路面は湿気を帯び、窪みには水が溜つていた。この外本件事故が発生した地点(右三さ路より西方約八米、田中正太方家屋より北方約一、三八米)には後記水道管の漏水による長さ約一、四米、幅約〇、五米、深さ約〇、四五米の水溜りを生じていたが、一見して危険を感ぜしめるような外観は呈していなかつた。
(2) 事故の経過。被告田中淳は当日午前九時頃店員である永島八郎と訴外渡辺敏彦に命じて被告会社所有の自動三輪車にトロツコ用レール約二十二本を積ませ、荷台の左側に右永島を、右側に右渡辺をそれぞれ同乗させ、これを運転して被告会社前を出発し、同市徳前貴船町所在の被告会社倉庫へ向う途中時速約十五粁の速力で前記事故現場に差し掛つた際、前方に稍広い水溜り(前記水道管の漏水による水溜り)があるのを認めたが、まさか車が埋るようなこともあるまいと思つてそのまま右水溜りを避けずに車を進行させたところ、右自動三輪車の左側後車輪が右水溜りに落込み車体が左に傾斜し、その際レールを固定してあつた縄が切れてレールが左側に移動したため車体が左側に横転し、路上に転落した右永島の頭上に右レールが落下し、そのため右八郎は右頭部前額複雑骨折、頭蓋内出血等の重傷を負い同日午前十時二十分頃同市大字飯塚青山外科病院において死亡するに至つた。以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
二、被告田中淳の本件事故に対する責任。
(1) 積荷の固定方法に関する過失の有無。
当時レールの積載方法につき被告田中淳に過失があつたかどうかを考察するのに、貨物自動車の運転者は、貨物を積載するに当り、少くとも運転中通常予想される車体の動揺等によつて貨物が移動して自動車の運転に支障をきたし、或は貨物の落下により車外の人車に危害を及ぼすことのないようこれを十分車体に固定させ、また貨物の積載を助手その他の者にさせた場合においても自らこれを点検して不備な点がないかどうかを確認し以て事故の発生を未然に防止すべき注意義務があると解すべきところ、同被告は当時右注意義務を怠つていたものといわざるを得ない。即ち当時前記自動三輪車に積載した貨物がトロツコ用レール約二十二本であり永島八郎と前記渡辺敏彦とが被告田中淳の指示によりその積載にあたつたことは前段認定のとおりであるところ、前掲甲第六号証の十、十七の各記載、証人渡辺敏彦(第一回)の証言及び被告本人田中淳(第一回)の供述を綜合すれば、右レールの積載方法は右自動三輪車の荷台後部にロープを以て固定されていた木製の台と荷台前部のアングルの上に前記レールを山型に積み、運搬距離が短距離であつたため縄掛けを簡略にし、後部の台の附近と前部のアングルの稍後方の二箇所に中古のところどころ細くなつた経六分のロープを各二回宛レールに捲きつけて掛けた程度であつたことが認められる。ところで前掲甲第六号証の十六の記載によれば右自動三輪車は全長約三、一五米、最大積載量は七百五十瓩であるところ、被告会社代表者田中淳一の供述によれば前記土工用レールの長さは約五米、右レール二十二本の総重量は約七百乃至八百瓩に達するものであつたことが認められ、かかる積載物件の形態、個数、重量等よりみれば上記の如き固定方法は極めて不完全なものであつたと認めざるを得ない。しからば被告田中淳は当時前記注意義務を怠つていたものというべく且つ右過失が本件事故発生の一因をなしたことは前段認定の事故の経過からみて明らかである。
(2) 自動車運転上の過失の有無。
次に本件事故が被告田中淳の自動車運転上の過失に基因するものかどうかの点につき考察するのに、自動車運転者は自動車の運転にあたり絶えず路面の状況についても注意を払い、水溜り等路面の悪い箇所は極力これを避け、以て事故の発生を防止すべき注意義務があることはいうまでもない。今本件についてみるのに、前記水道管の漏水による水溜りが一見して危険を感ぜしめるような外観を呈していなかつたことは前段認定のとおりであるが、しかし水溜りの中には意外に深いものもあるかも知れないということは自動車運転者として当然考慮すべき事項であるのみならず、被告田中淳の運転していた前記自動三輪車は当時ほぼ満載の状態にあり積荷の固定方法も極めて不完全であつたことは前段認定のとおりであるから車体に動揺乃至は傾斜を与えないよう一層配慮すべき場合であつたというべきである。しかるに被告田中淳が当時前記水道管の漏水による水溜りの存在を認めながら、軽卒にも車輛が埋るようなことはあるまいと考え、これを避けずに前記自動三輪車を進行させたため、右自動三輪車の左側後車輪が右水溜りに落ち込み本件事故を惹起するに至つたことは前段認定のとおりであるから、本件事故は同被告の自動車運転上の過失にも基因するものであるといわなければならない。しからば同被告は本件事故によつて発生した損害を賠償する義務があるというべきである。
三、被告会社の本件事故に対する責任。
成立に争のない甲第六号証の六の記載、被告会社代表者田中淳一、被告本人田中淳(第一、二回)の各供述を綜合すれば、被告会社は金属の回収等を営む株式会社であるが、代表取締役には田中淳一及び同人の長男である被告田中淳等が就任し、従業員も二、三名程度の小規模の会社であつて、被告田中淳は常時被告会社の自動三輪車の運転手として、従業員と共に現場関係の仕事に従事していたことが認められ、右認定の事実によれば被告田中淳は名目上は被告会社の代表者であるが、その実質は被告会社に対して民法第七百十五条にいわゆる被用者の地位にあつたことが窺われるところ、前段認定の事実に徴すれば、本件事故は被告田中淳が被告会社の代表機関としての立場においてではなくして、被告会社の被用者としての立場においてその事業の執行につきその過失により惹起せしめたものであることが認められるので、被告会社は民法第七百十五条第一項の規定により本件事故に因て発生した損害を賠償する義務がある。
四、被告飯塚市の本件事故に対する責任。
本件事故が発生した前記宮の前通りが被告飯塚市の管理する道路であり、その地下には被各飯塚市の水道管が埋設され、本件事故が発生した当時、現場の道路に右水道管の漏水による水溜りを生じていたことは当事者間に争がなく当時右水溜りの大きさが長さ約一、四米、幅約〇、五米、深さ約〇、四五米に達していたことは前認定のとおりであるところ、前掲甲第六号証の九の記載、証人城丸末松、矢野ミツエ、矢野貞次の各証言、鉛管の検証の結果及び前認定の事実を綜合すれば、前記宮の前通りの南端より約一米四十糎、地下約七十糎の箇所に右道路と並行して被告飯塚市の設置した水道管の本管が埋設されており、前記田中正太方横において右本管に分水柱を設け、これに家庭給水用の鉛管が接続されていたところ、本件事故の約一週間前に右接続箇所に近接した鉛管の部分に直径約〇、五耗の穴があき、これより漏水し始めたこと、その後本件事故の約四日前に被告飯塚市水道課吏員訴外大庭兵市が偶々本件事故現場附近に赴いた際、訴外矢野ミツエ等より水道管が漏水していることを告げられ、その修理を要望されたが、事務の手違いから早急に修理がなされなかつたため、本件事故発生当時前記の如き大きな水溜りを生ずるに至つたこと、及びその間被告飯塚市は右漏水箇所に縄張りをし或は標識を立てる等事故防止のための措置も全く講じていなかつたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
而して前掲甲第六号証の十六の記載によれば事故の直後警察当局において試みに本件自動三輪車の左側後車輪を前記水溜りに乗り入れさせてみたところ、車体が左側に約三十度傾斜し、積載物の如何によつては横転する可能性が十分あつたことが、認められるので、本件事故現場の道路は、前記水溜りの存在によつて道路として通常備うべき安全性を欠いていたものといわなければならない。しからば右水道並に右道路の管理者である被告飯塚市に右水道並に道路の管理につき瑕疵があつたものというべく、前段認定の諸事実に徴すれば右瑕疵が本件事故の一因をなしたことを認めることができる。
ところで参加人は右の如き事実関係に基き被告飯塚市に対し、民法第七百十七条により本件事故によつて発生した損害の賠償を求めるところであるが、前記水道が被告飯塚市の水道であること及び前記道路が被告飯塚市の市道であつて同被告において管理するものであることは前段認定のとおりであるから、右水道並に道路は被告飯塚市の公の営造物であり、その管理に瑕疵があつた場合として被告飯塚市は民法第七百十七条の特別規定である国家賠償法第二条第一項の規定により本件事故によつて発生した損害を賠償する義務があるといわなければならない。而して本件事故は前認定のとおり被告田中淳の過失と被告飯塚市の公の営造物の管理の瑕疵とが競合して発生したものであるから共同不法行為として、右被告両名及び被告会社は連帯して本件事故から発生した損害を賠償する義務がある。
五、参加人と永島八郎との身分関係。
永島八郎が参加人と訴外亡松井種雄との間の婚姻外の子として出生し、参加人の父母である訴外亡永島友次郎と原告永島クラの嫡出子として出生届がなされたため、参加人において右八郎を認知する手続も、またこれに代る私生子出生届もしていないことは前段認定のとおりであるから、婚姻外の子と母との間に母子関係が成立するためには母の認知またはこれに代る母からの私生子出生届を要するとする従来の判例によれば、参加人は法律上右八郎の母ではないといわなければならない。しかしながら専ら客観的な事実により親子関係を確認する強制認知の手続が採用されていることに徴しても、認知制度の目的は少くとも現在においては親子関係の存否が明確でない場合にこれを確認することにあるものと解すべく、従つて分娩という明確な事実を伴う母子関係については、法律上の母子関係も分娩という自然的事実により当然発生し、認知の手続は要しないものと解するのが相当である。従来の判例の根拠とされている民法第七百七十九条の「嫡出でない子はその父又は母がこれを認知することができる」という規定も婚姻外で出生した子と母との間に母子関係が生ずるためには必ず母の認知を必要とする趣旨ではなくして、例えば棄児の場合等事実上母子関係の存否が明らかでない場合に認知によつてこれを明確にする道を残しているに過ぎないものと解すべきである。従つて参加人は法律上も右八郎の母であるといわなければならない。
六、損害額。
(1) 右八郎の将来得べかりし利益を喪失したことによる損害。
(イ) 右八郎が死亡当時被告会社に店員として勤めていたことは前段認定のとおりであるところ、証人武藤欽哉(第一回)の証言及び被告本人田中淳(第一回)の供述によれば、右八郎の死亡当時における平均賃金は一日金二百四十四円六十一銭であつたことが認められるので、右八郎の年間総収入は金八万九千二百八十二円六十五銭であつたわけであるが、参加人本人永島初子(第一回)の供述によれば、右八郎の生前における生活費は多くとも月額金三千六百円を超えなかつたことが認められるので、前記年間総収入より毎月金三千六百円の割合で右八郎の生活費を控除した残額金四万六千八十二円六十五銭が右八郎の死亡当時における年間純収入である。
しかるところ、右八郎が昭和九年四月三日生であることは前段認定のとおりであるから、同人は死亡した昭和三十一年一月二十五日当時満二十一才九ケ月余であつたわけであるが、参加人本人永島初子(第一回)供述によれば右八郎は生前健康体であつたことが認められるので、同人の平均余命及び残存稼働可能年数が少くとも参加人主張の三十八年を下らないことは当裁判所に顕著な事実であり、且つ右八郎の生前における職種並に賃金額に徴すれば、右八郎はその間少くとも前同様の収入を得ることができたものと推認されるので、右八郎が事故後三十八年間に若し右事故がなかつたとすれば将来得べかりし純収入をホフマン式計算法により年五分の割合により中間利息を控除して計算すれば、合計金六十万三千八百四十一円余になることは計算上明らかであるから、右八郎は本件事故により右金額と同額の損害を蒙つたものというべきである。
(ロ) 次に被告等の過失相殺の主張につき検討する。
まず積荷の固定方法につき右八郎に過失があつたか否かの点については、当日右八郎と前記渡辺敏彦とが本件自動三輪車にレールを積載し、施縄したが、その固定方法が不完全であり、且つそのことが本件事故の一因をなしたものであることは前段認定のとおりであるから、右八郎にこの点につき過失があつたものといわなければならない。しかしながら積荷の方法につき最も留意すべきものは、自動車運転者であると解すべきであるのみならず、また本件事故の発生につき前認定のとおり被告飯塚市の公の営造物の管理の瑕疵、被告田中淳の自動車運転上の過失等他に重大な原因が存在していることを考慮すれば損害賠償額の算定につき右八郎の右過失を斟酌することは相当でない。
次に被告等は右八郎が当時法規に違反して前記自動三輪車の荷台の上に立つていたため本件の如き重大な結果が発生したものである旨主張する。道路交通取締法施行令第四十三条には、貨物自動車の荷台に乗車するものは、荷台に座わらなければならない旨規定されているところ、右八郎が当時荷台に立つていたことは前段認定のとおりであるから、右八郎は右規定に違反した方法で乗車していたものといわなければならないが、前段認定の事故の経過に徴すれば、仮に右八郎が荷台に座つていたならば死の結果を免ることができたであろうことはにわかに断定し難く、他に右八郎の前記法規違反の事実と同人の死の結果との間の因果関係を肯定するに足る証拠はない。しからば被告等は右八郎に対し同人が本件事故によつて蒙つた前記損害の全額を賠償すべき義務を負うていたわけである。
(ハ) 而して参加人が右八郎の母であることは前段認定のとおりであるところ、前掲丙第十五号証の記載及び参加人本人永島初子(第一回)の供述によれば、右八郎の相続人は参加人のみであることが認められるから、参加人は右八郎の死亡により前記金六十万三千八百四十一円の損害賠償請求権を相続により承継取得したものといわなければならない。ところで証人武藤欽哉(第一、二回)の証言及び参加人本人永島初子(第二回)、被告本人田中淳(第一、二回)の各供述を綜合すれば、昭和三十一年三月二十四日頃飯塚労働基準監督署の勧告により労働基準法第七十九条に基き、被告会社より参加人に対し右八郎の死亡により遺族補償として金二十四万四千六百十円支払われたことが認められるので、遺族補償の性質に鑑み、その価格の限度において右八郎の蒙つた損害は補填されたものと解すべきであるから前記金額よりこれを控除すれば結局参加人は被告等に対しなお金三十五万九千二百三十一円の損害賠償請求権を有する。
(2) 慰藉料。
参加人本人永島初子(第一回)の供述によれば、参加人は若くして内縁の夫と死別し、以後右八郎と前記永島賢一とに望を託して同人等を愛育し、その成長後は他に資産もないところから専ら右八郎と賢一の収入によりその生計を立てていたことが認められ、従つて右八郎の不慮の死により甚大な精神上の苦痛を受けたことは容易に推認することができる。右の事情その他本件にあらわれた一切の事情を斟酌すれば、被告等の支払うべき慰藉料の額は金十五万円をもつて相当であると認められる。
七、しからば被告等は連帯して参加人に対し右(1) (2) の合計金五十万九千二百三十一円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和三十一年五月三日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるといわなければならない。
第四、結論。
以上の次第であるから、原告の請求は理由のないものとしてこれを棄却し、参加人の被告等に対する請求は右に示した限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、参加人の原告に対する請求は不適法であるからこれを却下すべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条、第九十二条本文、第九十三条但書を適用し、なお仮執行の宣言を付することは相当でないのでこれを付しないこととし主文のとおり判決する。
(裁判官 川淵幸雄 藤原千尋 吉田修)